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更新日 2023/05/04

森川海研は「政府の嘘」を暴く

八重樫志仁 ウラカウンクル/森・川・海のアイヌ先住権研究プロジェクト副代表

森川海研で副代表をしているウラカウンクルの八重樫と申します。5分から10分ぐらい、あいさつをしろと言われて、「ハイ」と返事をしましたが、僕にはたぶん拒否権はなくて(笑)、副代表の立場なので当然なのですが、何をしゃべろうか、と考えてきました。

ここ(さっぽろ自由学校「遊」講座)に来ている人たちは、どういう人たちなんだろうって、考えたんです。アイヌはお金を出してこういう講座には参加しませんから、ほとんどは非アイヌだろう、って思ったんです。僕がこういうところでしゃべるときは、事前に原稿を提出しろとは言われませんので、検閲を受けないんですね。だから「何をしゃべるんだろう?」って、森川海研の人たちはきっと、内心ヒヤヒヤしているんじゃないかと思うんですが。

僕はこの30年間、アイヌのこと(人権運動)をやってきました。というか、アイヌのことしかやってこなかったんですね。アイヌのことだけを考えて、アイヌのことしかやってこなかった僕ですので、アイヌのことしか話せません。そんな僕が非アイヌの人たちの前で何を話せるんだろうか。そう考えるんですよね。何を話せば非アイヌの人に届くんだろうか? そんなことを考えていました。

この国で、アイヌというアイデンティティを持って生活するようになると、和人の人権意識の低さ、加害に向き合う姿勢のなさに、日々直面するようになりました。僕はアイヌのことだけを考えていたいんですが、アイヌ以外のことが目に入る、というか、気になるようになったんですね。今は本当に、アイヌのことより、アイヌ以外のことの方が気になってしようがない。それ以前も、部落民や琉球人のことは当然、意識の中にありました。あるいは在日コリアンの問題とか。自分がアイヌのアイデンティティを持つ前から、頭の片隅にはあったんです。でもアイヌのことを始めるといっそう、アイヌ以外のこともどんどん入ってくる、目に映ってくるようになって。ジェンダーの問題とか、最近ですと、入管(法務省入局管理局/出入国在留管理庁)に殺されたウィシュマさんの問題、外国人の問題、LGBTQ+の問題とか。あるいは宗教二世の問題も……いろんなことが気になるようになりました。

なぜなんだろうなあ、と考えると、きっとそれは、アイヌのことをやるということは、この国の不正義と対峙することなんじゃないのかな、と最近、思うようになりました。1980年代から90年代にかけて、僕がちょうど地元に帰ってきたころ、アイヌ新法制定運動がすごく盛んでした。いよいよアイヌ新法ができるらしい、となった時、多くのアイヌが、本当に多くのアイヌが期待したんです。でも、アイヌが作ったアイヌ新法案(社団法人北海道ウタリ協会総会可決「アイヌ民族に関する法律(案)」、1984年)は完全に骨抜きにされて、アイヌ文化法(アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律、1997年)ができたんですね。

みんながっかりでした。僕もがっかりしました。当時、北大の先生だった常本(照樹)さんが講演会で、「戦略としては、これ(たとえ骨抜きでも法律制定を優先したこと)は正しい」「これを突破口にして、その先に真のアイヌ新法の制定がある」みたいな話をされました。一度、落胆させられたんですけど、その話を聞いて、僕は再び希望を抱いたんですね。その話をした人が、いまアイヌ文化財団(アイヌ施策推進法指定法人)の理事長をしています。本当に裏切られた。というか「だまされた」という思いが、僕にはあります。

アイヌ施策推進法(アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律、2019年)を、僕は「アイヌ文化法(改)」と呼んでいるんですけれども、相変わらずアイヌの民族自決権を認めていないし、おかみにお伺いを立てないとアイヌは何もできない仕組みです。良い例が「アイヌ施策交付金」制度(法律4章・5章)です。それ以前にあった「ウタリ福祉対策」、農林漁業対策の手法そのままなんですよね。アイヌにはそれを申請する権利もない。自治体が申請をして、自治体が(交付金を)使う。こういう支配/被支配の関係は、アイヌ文化法(改)になっても、何も変わっていない。

施行5年後の法律見直し時期(2024年)を前に、「この法律自体はとっておいて、中身を変えていけばいいんだ」という言い方をする人もいて、最初は僕もそう思っていたんですけど、今では僕は、このアイヌ施策推進法は「アイヌ同化法」じゃないか、と考えています。

この森川海研は、アイヌ共用林制度(アイヌ施策推進法16条)が「何かおかしいぞ」というところから始まっています。上村さんの先ほどの説明にありましたが、シャケの特別採捕許可(北海道漁業調整規則)と同様で、「おかみにお伺いを立てたら、ポンノポンノ(ほんのちょっとだけ)とらせてあげるヨ」というものです。シャケの特別採捕、あるいはこのアイヌ共用林、これは先住権とは対極にあるものです。

森川海研はこれから、そんな政府の嘘を暴こうとしているんだ、と僕は思っているんですよね。森川海研の研究が、アイヌにとってこれからとても重要なものになっていく、というふうに僕は考えています。イヤイライケレ。


2023年5月1日、さっぽろ自由学校「遊」講座/「先住民族の森川海に関する権利―ヤウンモシㇼ(北海道)の森林とアイヌ民族」でのスピーチから。