HOME / エッセイ&リポート

更新日 2023/03/02

アイヌ文化法(改)固定化を許してはいけない

八重樫志仁 ウラカウンクル/森・川・海のアイヌ先住権研究プロジェクト副代表

ほんの短く、5時間ほど(笑)お話ししたいと思います。

30年前、ぼくがヤウンモシㇼ=北海道に帰ってきたころは、民族ってこと自体を良く分かっていない、「アイヌって何?」ていう状態だったんですよ。当時(1990年代初頭)は、アイヌ新法(制定運動)が非常に盛んで、いろんなところで、権利であるとか、自分たちの境遇であるとか、いろんな話が盛んにされていました。当時のウタリ協会がつくったアイヌ新法案(1984年「アイヌ民族に関する法律(案)」)、上村さんからもコメントがありましたけれど、それの制定活動が行なわれていたんですよ。そのうち1997年に「新法ができるぞ」というので、ものすごくみんな期待していたところ、(現実には)骨抜きにされたアイヌ文化(振興)法というものができました。上村さんもおっしゃっていたように、いろんな重要なポイントがあるうち、(ウタリ協会新法案に明記されていた)自立化基金というものが、アイヌ文化法では触れられず、それどころか、先住権自体にいっさい触れられないものになっていたんですね。

当時、北海道大学の先生だった常本(照樹)さんのアイヌ文化法についての講演会が札幌であって、聴きに行ったんですけど、その時、ソフトランディングとハードランディング、飛行機の着陸用語にたとえて、アイヌ文化法の話をしたんです。ソフトランディングとはタイヤを出して安全に着陸すること、ハードランディングってのは故障とかトラブルがあって車輪を出さない状態で胴体着陸することなんだ、という話だったんですよ。この時、常本さんが言ったのは、「いきなり先住権を取り上げた法律を作るのは、リスクが高いハードランディングなんだ」と。「着陸自体を失敗するかも知れない。つまり法律を作ること自体、できなくなるかもしれない。なので今回、先住権に触れずに文化法を成立させたのは、今後に向けて良いやり方だった」みたいな話をされたんですよ。それを聴いた時、「ああ、そうかそうか、これが決着点じゃないんだな。今後、この法律を元にさらに新しい法律に作り替えて、先住権を認める法律、本来アイヌが望んできたアイヌ新法ができるんだな」と、僕は期待をしたんですよ。良い話を聞いたなと思って。今後に向けて希望を持たせるような話だったんですよね。

ところが、待てど暮らせど、あれから何年経とうと、法律を変えようという動きは一切なく……。

アイヌ側も、それまでのアイヌ新法制定の熱が、なんだろう、本当に不思議でしようがないんですけど、一気に、今まで例えば100だったものがゼロにまで下がるんですよ。

あの当時、それこそ僕は「アイヌってなに?」という状態だったから、先住民族についても先住権についても良く知らない状態だったんです。先住権にまで踏み込んだアイヌ新法案を当時のウタリ協会の幹部の方たち、貝澤(正)さんたちも入っていたと思うんですけど、そういう方たちがつくったものが、一切、アイヌの中ですら、議論されずにいくわけですよ。

で、何が起こったかというと、アイヌ文化法ができて、アイヌ文化振興・研究推進機構ができて、そこからどうやってカネを引き出すかっていう、そっちのほうにどんどん注力していくわけです。あれから20数年経って、「アイヌ文化法が変わるらしいぞ」っていうことになって。その時もやっぱり、多少は期待したんですけど、結局、結果的には、アイヌ文化法を少し拡大しただけの「アイヌ文化法(改)」ができただけなんですね。それができたのが2019年。「5年後に見直しをする」と言われていますけど、抜本的な見直しをするっていうわけではなく、運用に関する見直しをする程度らしいんですよ。ということは、この「アイヌ文化法(改)」が、今後固定化してしまう危険性が非常に高いということなんですね。

この森川海研、先住権についての研究を行なっているわけですけど、いま2023年か、あと1年経ったら(「アイヌ文化法(改)」の)見直し時期で、その見直しも運用に関する見直しで終わるんじゃないかということで、文化法(改)がそのまんま、それこそ文化法からもう25年、さらに文化法(改)がこれから30年も40年も50年も続くような状態になるかも知れない、いまその本当に際(きわ)のところにあるわけですよ。

先住権についての研究をするこの森川海研のような存在は非常に重要になっていると、僕は思います。とても重要なので僕も参加しているわけですよ。これをもっともっと、どんどんどんどん、いろんな人に……。これ(現行のアイヌ施策推進法)は、先住民政策として不十分なんだよということをアピールするための材料として、本当の、真のアイヌ新法制定のための起爆剤というのかな、それになっていったらいいなと思います。そのための研究会ですので、みなさん、ぜひこれからもご協力をよろしくお願いします。


2023年2月23日、プロジェクト全体会合でのスピーチから。